1.トランプはどうなるのか?

今アメリカで最も危険な人物だと言われているのが、大統領であるドナルド・トランプです。国のリーダーであり、世界最大の軍事力の長(Commander in Chief) 、世界で最も恐ろしい核兵器使用の責任者が陰謀論に没頭し、2日前にサポートする人々をDCに集め、暴徒として議会への乱入をそそのかし、精神的に安定していないので、残り数日とは言え、Amendment(米国憲法修正)5条(Sec5)を使う解任か、Impeachment(弾劾)により残りの数日は副大統領のペンスに大統領となってもらうべきだと主張している議員が多数だと言われています。JFケネディー大統領暗殺の際に速やかに権限の移行をするためにできたのが25条なので、今回はそのような状況でないので、使わないのではないかと言われていますが、大統領自身が国に反逆をするという状況は前代未聞で、興味深く見ています。

 

ジョージタウン大学に留学していた時期に、NHKのワシントン支局でインターンをしていたのですが、その際に議会には何度も行きました。議会の警備は当時でもかなり厳しく、このように簡単に暴徒が入り込むをいうことは想像できません。恐らく、大統領から何らかの圧力があり警備があまかったのだと思います。国の権力者が独裁者となり、議会をコントロールしようとすることはよくあることであり、ナチスの時もそうですが、議会政治が独裁者によりつぶされることは想定できたことです。3権分立の中、行政の大統領をけん制するはずの議会が直接攻撃されているのです。今回はアメリカの民主主義の脆弱さを露呈した暴動であったと思います。なので、今後のことを考え残り数日をは言え、前例を作らないようにするためにトランプに対する何らかの制裁があることと想定されます。大きな権限を有する国の代表なので、大統領という役職は「特別」な保護があり、それがゆえトランプはこれほどまで大統領職に執着していたのだと思います。以前のブログで書きましたが、トランプはその他に脱税や、様々な訴訟が背後にあると言われています。そして、大統領の恩赦制度を使い、この数日にでも自分の家族、そして自分自身でさえ、恩赦により罪の追及を逃れようとしていると言われています。ただ、今はまだ危険な状況であるので、恐らく実際の訴追や調査は1月20日にバイデンが46代米国大統領として就任し、トランプが大統領職を解かれてからになると思います。アメリカでは前大統領であれ、シークレットサービスがつき、自分の名前のついた記念館(Library)が国の予算で建てられ、様々な特権を維持します。前代未聞の「犯罪者」と仮になった場合は、どうなるのでしょうか?非常に興味深い状況です。

 

2.トランプの支持者と共和党

水曜の選挙人による大統領選挙の議会での承認(形式的な)に反対したテッド・クルーズを始めとした議員たちは、本気で選挙が違法に行われたなどと思っているわけではありません。彼が上院として代表するテキサス州は伝統的に共和党であり、その共和党の中でも主導権を何とか握ろうとしているが故にトランプ人気に便乗しようとしています。彼は自分自身の野望があります。過去共和党の大統領候補選挙で「テッド・クルーズの奥さんが醜い」といったようなレベルの低い侮辱をしていたトランプにさえ、こびを売っているのがテッド・クルーズです。それはトランプが予想以上に共和党の支持層を増やし、地方、そして高卒の白人層などの支持者を多く集めMAGA(Make America Great Again)といったスローガンの下に多くの労働者の支持者を集めたことがその背後にあります。

 

アメリカが独立してあらたな民主国家を築いた際にフランスから調査にきたAlexis De Tocqville (1805-1859)が著書「アメリカの民主主義」の中で、衆愚政治に対する懸念をしていたのですが、その民主主義の脆弱性はいまだに消えていないのです。衆愚政治とは愚かな人に扇動された愚かな人々(騙されやすい人)が、多数となり国を崩壊させることです。フランス革命の後、暴徒たちによるおかしな政治体制が一時まかり通っていたので、教育を受けた貴族であったトクビルは特に民主主義に対して疑問を持っていたのでしょう。扇動される騙されやすい人々は嘘に従います。なので、これだけ暴動が明らかにトランプ支持者により行われたいたにもかかわらず、実際に議会を破壊したのは極左のAntifaであると平気で嘘をいう共和党議員でさえいるのです。騙されやすい人が騙されているのです。以前書いた通り、アメリカの福音系白人教会の多くは共和党支持、そしてトランプ支持をしているので、暴徒の中には聖書を持って乱入している人もいました。前回のメールで私は、それらは偽預言者に騙されている人と書きましたが、純粋さゆえに嘘を信じてトランプに従ってしまう人も少なくありません。更にはQAnonや白人至上主義の過激派が今回は議会占拠を主導したと言われていますが、トランプの集めた嘘にひっかかりやすいより多くの人々がそれらの危険な思想に傾倒する可能性もあります。アメリカ政府はそれらの危険団体のサイトなどを停止させたそうですが、それらの団体はまだ、日本からフィリピンのサイトを活用してその活動を続けているという報道がされていました(なぜ日本?)。どうか福音系のクリスチャンたちが、聖書に書かれている本来の福音に立ち返り、そのような過激な思想に偏らないようにと願っています。ただ、今回の過激な動きは共和党にとって大きなWake Up Call になったでしょう。私の予想通り、共和党はトランプや過激なグループと距離を置くことになるでしょう。なので、トランプ人気に便乗しようとした共和党の議員たちは主導権を失っていくと思います。というかそうなって欲しいと思います。

 

3.嘘と政治

「政治家は嘘つき」というのは今始まったことではありません。自分の再選のことだけを考えている政治家は何でも口約束をして票を集めようとします。ただ、ドナルドトランプの嘘として徹底していたのは、自分はいつも正しく、すべて都合が悪いことは相手や別な人に押し付けようとする嘘です。この類の嘘は戦前の日本が鬼畜米英といって敵国のことを悪魔のようにして、自分たちが正義のために戦っているというのと似ています。今回議会で警察に射殺されたAshli Babbittという女性はカリフォルニア San Diegoの人らしいのですが、トランプが言う通り、副大統領のマイク・ペンスが選挙結果をひっくり返す手段があるということを信じ、マイク・ペンスのいた場所の近くの窓から侵入しようとしたところを射殺されたようです。特攻隊的な行動です。ペンスはそのような権限はなく、これまた嘘なのですが、嘘を機関銃のように連発するトランプ教の信者は疑うこともなく、行動していきます。Covid19 の自粛により職を失ったり、トランプ政権の下で貧富の差が広がっているにも関わらず、経済的に困っている人々が夢中でトランプに従っていきます。金持ちのトランプに従っていくというのはまさに皮肉なものです。そしてトランプが借金返済のために支持者からのファンドレイジングもしていると言われています。

トランプの「選挙は負けていない。民主党=極左勢力に盗まれた」という嘘はナチスが「第1次世界大戦に負けたわけではなく、ユダヤ人により莫大な費用を払うはめになった」といった大きな嘘 große Lügeと似ています。それは大きな嘘は、何度も言えば本当になるというもので、ナチスがユダヤ人弾圧・ホロコーストなどに活用したプロパガンダと似ています。こういった嘘は信じる人の数が増せばますます加速し、それが最終的に過激な思想となり、信じる人が過激派となっていくのです。QAnonは民主党や政治やビジネスのリーダーがPedophile(幼児虐待者)で、アメリカはそういう人たちに操作されているといったような陰謀説を唱えています。嘘は一度つくと平気になるそうですが、それが国家レベルになると危険です。秘密主義の中国の共産党などを批判するトランプ・アメリカが嘘にまみれているというのが今の状況です。嘘をつくことは聖書の十戒の一つですが、バイデンには嘘をつくカルチャーの変革をまずしてもらいたいと思います。

 

4.Fiduciary Duty の欠如

Fiduciary Duty のことを日本語では善管注意義務というそうですが、これは通常、組織の代表権を握る人は、個人的な利益より組織の利益を優先する義務があるということを表しています。アメリカ大統領であれば、当然、自分自身の利益より、国の状況を優先すべきです。ところがトランプ大統領は常に自分のこと、自分の評判、そして自分の利益を優先してきました。なので、自分にとって都合が悪い人は首にして自分の側近をYes Man で固めていきました。自分を批判するマスコミは除外し、自分のことを良くいうメディアしか相手にしないのです。この時点でトランプは大統領にとってUnfitだったのです。自分自身の為にまわりを巻き込み、アメリカが国家として弱体化している状況が露呈されました。ゴア、ブッシュの選挙戦は今回よりはるかに僅差でしたが、ゴアが敗北を認めたのはまさにアメリカが混乱することを防ぐためでした。ところが、トランプはむしろ自分の為の混乱を優先しました。なので、今回暴徒たちが議会に突入したのをテレビで見ていたトランプは大喜びしていたと今日のニュースで言っていました。トランプはビジネスマンだと言われていますが、このようなリーダーはあまり企業のトップとしても適切ではありません。このようなタイプのリーダーは、アントレプレナー系の会社に多くいます。それは、自分が立ち上げたがゆえに会社=自分であり、自分のエゴを抑えることができなくなるからです。小さい会社を大きくする際には自分=会社としてすべてを没頭する体制は効果的にはなりますが、大きな会社となるとそうはいきません。なので、会社が株式公開された時点で、そのような独裁者的な社長が追い出されることも少なくありません。ただ、政治家は別です。選挙で選ばれた国民の代表者は、当然自分自身のこと以上に国民全体の利益を優先する義務があります。自分の為に自分の支持者を動かし、Pennsylvania Avenueを歩いて、CapitolでWildになろう!などというそそのかして暴動の火付け役となったのは、トランプであることに間違いありません。そして自分も一緒に行くと言ってそこにはいないという嘘を平気でまた言ってます。昨日になって急に「議会であったことは悲しむべきこと」「暴動に関与した人は裁きを受ける」と手のひらを返したように、他人事のように語っています。そんなトランプをなぜ支持し続けるのか、不思議でありません。選挙の予想でも私はバイデンが圧勝するとよんでいたのですが、意外な接戦になりました。それはトランプ以上に何か大きな思想の流れがあり、アメリカがより悪い方向に向かう前兆なのかもしれません。 (NHKワシントン支局でインターンをしていたころの私です)