先週、WallStreetを沸かせた出来事がGameStop(GME)の株の高騰です。数年前に3ドル台で取引されていたGameStopの株が急に高騰し市場を混乱させました。週の始めに30ドル程度だった株が水曜には300ドル、木曜には480ドル、そして急にRobin hoodなどのオンラインの証券会社などが株を買うことを規制し、一時期$100ドル台になるも金曜にはまた300ドル台に戻るという乱高下を繰り返しました。短期間に100培(最安最高で143倍)というのは明らかに異常事態です。

 

問題点は何か?

株の乱高下は市場では珍しいことではありません。ただ、今回の事象の問題は2点あります。まずは、今回の問題はGamestopの株はこれといって上がる理由のない斜陽の会社の株です。市場のファンダメンタルズからいうと、300ドルという価値はありえない水準です。それは、Redditというオンラインの株式チャットで人々と影響させ、一般人がこぞって株を購入させ高騰させたということです。これは株式市場に関する信用にも関わるので問題です。もう一つの問題は、木曜日にAMERITRADEやRobinhoodなどの小口の個人投資家が使用する口座でGamestopの株を売れても買えないようにしたことです。その結果株は一時的に下がり、Hedge Fundなどの大口投資家は、Short(先売り)による債務を返済できたのではないかという市場操作の疑いです。今回の問題がどのような意義があるのか、そして将来はどうなるのかといった点に関して解説したいと思います。

 

Hedge Fund とShort Seller(空売り)

私がビジネススクールで投資のクラスを取った時にクラスの一番最初で教授が言ったことは衝撃的でした。「投資の世界ではSmart Money(賢い金)がNaïve Money(何も知らない金)を食べて大きくなる。そして大きな金は影響力が大きいので、ますます大きくなっていく。」いかにもWall Streetの投資銀行出身の教授が言いそうなことですが、要は投資の世界では金持ちがより金持ちになること、知らない人は損をするという原則があるといったやや高慢な発言です。結局、私のような投資を何も知らない人間は損をして終わりか…コンチクショー…と感じましたが、それがきっかけで私は株の投資を始めたので、今は感謝しています。Hedge FundはまさにそのSmart Money集団でその手段の一つとしてShort Selling(空売り)があります。特にこれは市場の先行きが不透明な状態で効果的で、今年あたりはShort Sellingを活用してHedge Fundが相場以上のリターンを上げる手段として効果的に用いるのに良いタイミングです。下がりそうな会社の株を見つけ大量に空売りすると、株は下がり、さらにそれに焦った市場で売る人が増えるので、その株を返済する際には安くなるので、短期間でかなり利益をあげれる計算です。今回大損をしたHedge FundのMelvin、Point72 、D1などは12月ごろから空売りを始めていて、恐らくは10ドルぐぐらいだったので、それを売って短期的に昨年前半の水準であった$5ぐらいには下がると踏んでいたのでしょう。それがShort Squeeze(返済する株の価格を吊り上げ、空売りをした人が逆に損をするという状況)にあい、190億ドルもの莫大な損をさせるという状況を作りました。Short Squeezeを起こしたのはRedditというチャットで集まった小口投資家達で彼らからすれば確実に買わなければならない客がいる株(空売りは借りた株を売るのでそれを買って返済しなければならない)なので確実に上がるので買おうという動きでした。その動きに火がつき、想定できないほどの高騰が起きたのです。

 

フランス革命とその被害

TESLAやSpaceXの創業者Elon Maskはこの状況をTwitterでGamestonk! (Game Stopを俗語の株の俗語Stonkと兼ねている)とtweetしましたが、Stonkには「集中攻撃する」という意味もあるので、この現象を面白おかしく表現していました。彼は以前からShort Sellerが嫌いで、Tweetしていました。特にTeslaの株がShortSellerにより下げられていた際に、株を元にファイナンスしていたMaskにとって、Short Sellerは将来の発展を妨害する者でしかなかったからです。私も投資した株がニューズの前触れもなく、一気に落ちることがあり、後でShort SellerがそれをしていたとわかるのでそういったHedge Fundは嫌いでした。それを一般の投資家が集まり、株を高騰させ彼ら金持ちの連中に大損をさせたわけです。そしてその活動には金持ちがますます金持ちになるというWall Streetの原則に挑戦する戦いの意義があり、民衆の金持ちに対する怒りを示す意義あるものだったと思います。ある意味、嬉しい気持ちです。でもこれにはフランス革命と似た恐ろしいエスカレーションがあります。フランス革命は民衆が蜂起して王政を覆しましたが、そのあとも、貴族のみならず革命家たちをも次々とギロチンにかけフランスは混乱に陥りました。もうHedge FundはShort Position をカバーした(損をして返済をした)と言っているので、今後損をするのは、株価が自然暴落する際に高値で購入した人になります。革命家のロベスピエールが自らギロチンにかかったように、結局はこの動きに乗っかった民衆が最終的に損をすることになるでしょう。

 

Game Stop

Game Stopはゲーム機器、ゲームソフトの新品や中古を売買する店で、アメリカ全土にあります。90年代以降のゲームブームで急成長した公開会社でした。ただ、今はゲームはダウンロードが主体、モバイルに移行しているのでゲームソフト時代の販売は先行き真っ暗だと言われています。携帯事業もしましたが、それも売却し、数年前に経営陣が戦略的に身売りをする動きをしましたが、それも失敗しました。要は行き所を失った見捨てられた会社です。ただ、そのブランドやバランスシートでのキャッシュなどを見ると悪くないので、実は私も数年前に買い増しをしました。2000年前半頃に最初は投資したのですが、以前紹介した私の投資方式だと倍になったら半分売り、その後また半分売りという流れなので、一度投資すると必ず残りが出ます。数年前にその残りをどうしようかとリサーチをした際にキャッシュのPositionが悪くなかったので、Yahooのように会社をつぶして資金分配する可能性もあるかと思い、少しだけ買い足しました。残念ながら倍になったらまた半分売ってしまったので、今回の恩恵はそこまで受けませんでしたが、この状況は想定外でした。

 

学べる事と将来への影響

1)                   一般投資家の増加と金余り:今回は機関投資家達の想像を超える投資額で株価が高騰しました。ちょうど暴徒の数に警察が圧倒されるかのようです。Robinhoodなどアメリカのオンラインの証券会社はどこも手数料無料。携帯のアプリで、いくらからでも簡単に株の売買ができます。今回の高騰に面白半分で参加した人もおり、「ファンダメンタルズに基づく利益追求」という投資ではなく、面白半分で株式市場を吊り上げるのに参加しているとも見えます。特に数百ドルが1日で数千ドルになるような状況であればギャンブル的に楽しんでいる人もいるのかもしれません。外食やエンターテイメントが減少し、金利が低い中、更に政府がお金をばらまいていて一般市民はCOVID自粛で貧困化する人がいる反面、逆に手持ちのお金が増えている人もいます。Naïve Moneyの量が増えると、Smart Moneyを圧倒し、市場原理が異常化するという状況が起きます。空売りは大手投資家にとって有利になっていましたが、今後今回のようなリスクを想定する必要もでてきました。今回投資した人の中にはゲーマーで昔よくGamestopでゲームを買ったので、記念に応援したいと言って購入した人もいるので、今までの空売りのロジックが必ずしも成り立たなくなり新たなリスクファクターができました。結果として空売りが減る可能性もあります。同時に一般投資家が増える分、公開会社にとって消費者受けする「ブランド」がますます重要になってきます。

 

2)                   人々の影響力と活動の変化:アメリカの政治の世界もそうですが、専門家やプロの意見より、現代社会はネットでの個人の影響力が強くなってきています。今回も複数の人のRedditでの書き込みから始まった動きであり、これが投資の専門家であるアナリストやテレビでバブルだと言っている専門家の意見を上回って人を動かしました。明らかに人々への影響力の媒体に変化が見られます。Robinhoodのように「全ての人が投資に参加できプラットフォーム」を提供することで、市場価格に対する影響力の主体が専門家からネットでのInfluencer (日本では何と言いますか?)に移ってきていると言えます。

 

3)                   金持ちによる市場への影響力:今回最も問題になっているのがRobinhoodなどの証券会社が一時的に株式購入をできなくしたということです。CEOのインタビューを聞きましたが、要は「急速な株式取引のボリュームとそれに基づくコンプライアンスを懸念して一時期買う行為をできなくした」と言ってましたが、それにより株価は下がりHedge Fundなどを助けたことは否めません。一部の株だけ買えない、そして売ることはできるというのは、その説明とは合致しません。そして大手投資家達は継続的に投資ができました。これは明らかに平等ではなく、結果的に市場介入と操作になっており、このような動きに対して、何らかの圧力があった可能性は否めません。特にRobinhood社自ら上場を控えているので、大手投資家に気を使っている可能性はあります。なので今回の高騰は最終的には大手投資家の勝利で終わると思います。但し、大手投資家は今後は一般投資家の動向を把握する必要が出てきました。

 

4)                   景気後退のサイン:限定はされてはいますが、今回の投資は明らかにバブルです。実際の価値以上に大きな値段がつくのがバブルです。2000年のTechバブル崩壊、2008年サブプライムローンの際(リーマンショック)もそのようなバブルがありました。そしてドットコムやリーマンのように一部の株の暴落が引き金となり景気後退が表に出ます。現在コロナ禍の中で経済活動に問題があるにもかかわらず株価が高騰しているのはバブルの可能性があります。更には、ワクチンができても、ウイルスは存在し続ける可能性があるので、全てがもとに戻るという保証はありません。なので景気後退のサインとして今回の高騰が起きた可能性はあります。

 

さて、RedditではGamestopを更に上げようといった記述があるようです。上がり続ければ確かに損をする人はいないので、以前紹介したPonzi Scheme (ねずみ講式投資)のように増え続けるシナリオを想定する人もいるかもしれません(それは経済的にはまずありえないのですが…)さて、今週はどうなるでしょうか?私は今週中には暴落が始まるのではないかと考えています。適正な株価は10~50ドル前後ではないでしょうか?皆さんはこの動きはいつまで続くと思いますか?