情報がグローバル化した現代、ロシアのウクライナ侵攻は、世界中の人々の前でプーチン、そしてロシア軍隊の非人道さを露呈させ、あっという間に世界中の人々の批判が過熱しています。プーチンは、時代遅れのリーダーだと言われていますが、第二次世界大戦の際のヒットラーのように、西側諸国の動きが遅いことを見越して、軍事力を前面に出した古典的な領土拡大型の侵略をしています。この戦争はプーチンの戦争であり、ロシアの人々にとっても災難しか生まない戦争であることは明らかです。1989年にベルリンの壁が崩壊した際に、私はジョージタウン大学で学んだ冷戦体制があまりにも大きく変化しているのに驚き、ベルリンに行き、壁を崩すのに参加しました。その際、プーチンも東ドイツにのドレスデンにKGB Agentとして駐在して東側の共産体制、ワルシャワ条約体制が崩れるのに驚き、その後のソビエトの分裂と民主化の波には大きな失望を感じたそうです。孫氏の兵法に「戦わずして勝つ」ことが最高の勝利だとありますが、冷戦は一見それが実現したような形で終わったかのように思われました。ただ、共産中国の台頭、プーチンの独裁化はまだまだ東西の対立が終わっていないことを感じさせます。そんな中、西側のリーダー、世界最大の力を持つアメリカは何を考えているのでしょうか?トランプ前大統領のコメントだけをみているとアメリカは、思慮が低くロシアの脅威を見過ごしていたように見えてしまいますが、今回のようなロシアの暴挙はある程度想定されていたのではないかと思います。ジョージタウン大学で、外交関連のシンクタンクなどで働く優秀な人をみてきましたが、アメリカの政策にはそういった専門組織の注意深い分析が背後にあるので、ウクライナ問題に関する想定できるアメリカの考えをNo Fly Zoneを焦点に見ていきたいと思います。

 

ウクライナの元お笑い役者であったゼレンスキー大統領は多くのアメリカ人にとって、民主主義のシンボル、ヒーロー的な存在になってきています。彼は効果的なコミュニケーターであり、イギリスに対してはチャーチルやシェイクスピアを引用したりして、人々の心を動かしています。アメリカのテレビのインタビューなどにも登場し、独裁者のプーチンと対極的なヒーロー的な存在になっています。特に今回の紛争はアメリカの歴史と重ねる部分があり、アメリカ人が自由を求め当時の大国のイギリスと戦った姿を感じさせます。独立当時アメリカをサポートしたフランスが、今のウクライナに対するアメリカの立場と重ねることができます。当時のフランスはアメリカに対して、物資的なサポートをしました。ただ最終的にフランスの存在意義を大きくしたのがフランス海軍によるイギリス軍を海で撃退したヨークタウンの戦いです。なので、無差別爆撃から人々を守り、No Fly ZoneをNATOを通じてアメリカが支援することはアメリカ人にとっても心から欲する部分ではあります。そしてゼレンスキー大統領はそこをうまくついた適切なコミュニケーションをしてきます。圧倒的な世論のバックアップがある中で、アメリカを中心とした西側諸国が、No Fly Zoneを公に否定しているのには、メディアでは、「エスカレートさせないため」と言っています。ただ、その裏にはこの紛争に関するアメリカの読みがあり、何らかの戦略的な「読み」が背後にあると思います。そのアメリカ側の「読み」について考えてみたいと思います。

 

1) ロシアのウクライナ侵攻はアメリカの関与なく失敗するという読み:ロシアの侵略が始まる前からバイデン大統領が侵略があると言っていたのは、ウクライナ人に対する警告であり、アメリカは当時の軍事体制や、過去のウクライナ国内における政治的な分裂から、あっという間にロシア軍が制圧すると想定していたのは事実だと思います。ただ、2014年の民主化革命にあったように、ウクライナ人の独立、反ロシアの思想の強さから、混乱の中で傀儡政権を建て、維持するのは困難であると想定していたと思います。なので、ゼレンスキー大統領を避難させるように促していたし、軍隊の配備もやや遅れていました。それは、ロシアを刺激せずにロシアを自ら失敗させるというシナリオです。でも、実際にはウクライナ軍、そして人々が立ち上がり、勇敢にも武力で戦うという道を選びました。現段階では、恐らくロシアは傀儡政権を早急にたて、何らかの合意でロシアの一部としてウクライナを早急に吸収することを考えているのが、プーチンの宣言から見て取れます。でも、ロシアの侵略にはいまだに成功のシナリオがありません。2200万のウクライナの人々はロシアの残虐な侵攻の被害者で彼らが、プーチンの支配下にはいることはまずないと言えます。つまり、最終的に失敗するロシアとわざわざ直接戦う必要はないということです。

 

2) NO FLY ZONEは戦略的に効果的ではないという考え:私がジョージタウン大学で取ったクラスで感動したのは、過去の戦争や戦いがどのように起こり、どのような戦術が有効であったのかということを分析するクラスでした。アメリカは、過去の実践をしっかり学び、専門家が分析しています。今回もNo Fly Zoneは必ずしも効果的な防御ではないという可能性があります。それはロシア軍の地上からのミサイルによる攻撃がこれからは中心になっていき、地上に対する空からの攻撃はNo Fly Zoneではすることができません。更に、DRONEなどを使った攻撃が効果的だと言われていますが、それをすることはNO FLY ZONEに反することにもなりかねません。恐らく別な手段でロシアの攻勢を防ぐ方法をアメリカが背後で支援する準備があり、表向きは「関与していない」と言わければ戦略として意味がなくなります。

 

3) プーチンが西側との直接対決を望んでいる可能性:アメリカでは拳銃の所持が認められていて、ほとんどに人は自衛のためだと言っています。でも中には「本当に拳銃を使てみたい」と感じている人もいます。プーチン大統領は核兵器を使ってみてもいいと感じているリーダーの一人であり、追い詰められた熊のように何をするかわからない危険な状態にあります。ロシアでは若者を中心に反プーチンの思想が広がっており、汚職も次々と明らかにっされています。プーチンも愛人の女性が2019年に消えて殺された可能性もあると言われており、何らかの恐怖心から今回のような無謀な軍事侵攻をしたという考えもあります。CNNでCIAの専門家が、独裁者が一番恐れるのは「権力を失うこと」だと言っていました。ロシアが戦時下になれば第二次大戦中のスターリンのようにプーチンも戦時下のリーダーとしてその権力を維持できるわけです。人権を重視する西側が簡単に核兵器を使うことができないことを知っているが故、喧嘩を売っている追い詰められたヤクザのようにプーチンがなっているわけです。ロシアが民間人を殺したり、無差別爆撃という惨い戦略をとっているのは、プーチンの意図的な挑発である可能性もあります。No Fly Zoneはプーチンに何らかの口実を与えることであり得策ではないのです。

 

4) Air Supportのタイミング、或いは規模の限定:前述した通り、アメリカにとってウクライナを支援することは避けて通れないものがあります。更にはMediaを通して伝えられるロシアの残虐な民間人攻撃はこれ以上許せないという世論をかきたてています。今後、状況によっては、NATOを通じて限定的に空からのサポート、更には民間人の救出を目的とした軍事活動がある可能性があります。ただし、戦争というのは全て手の内を相手に見せることは効果的ではないので、明確に「No Fly Zone」はないと言っておく方が、追い詰められたプーチンをエスカレートさせる抑止になります。同時に、ウクライナ民衆に対しても、ないといってから途中で実際にサポートをする方が、その逆よりは遥かに効果的です。アメリカ独立戦争の際になかなかフランスからの支援が届かずにラファイエットが批判されたということがありました。今のウクライナはその時のアメリカのようなのかもしれません。

 

5) ウクライナが独自の力でロシアを撃退し、プーチンが失脚する可能性:プーチンは予定通りにウクライナ侵攻はうまくいっているといっていますが、それが間違っているのは明らかです。ロシア国内で情報規制をしていることからも、プーチンにとってウクライナ軍、そして人々の抵抗は想定を超えるものであったと言えます。西側デモクラシーのリーダーとしてアメリカは見られていますが、アメリカ自体は世界に対する何らかの野望があるわけではなく、むしろ「アメリカ第1主義」にあるようにアメリカ国内により大きな問題があり、過去のモンロー主義にあるように海外での問題に関与することは消極的です。更に、過去のベトナム、そして最近のアフガニスタンでの失敗にあるように民主主義は独自の力で進めていかないとうまくいかないことをアメリカの専門家は知っています。表向きであれ、アメリカが独立した時のようにウクライナ人が独自の力でロシアとの戦いに勝つことが最もあるべき最終形なのです。復旧に関しては西側は圧倒的な支援をするだろうし、プーチンがロシアで失脚すれば、ロシアとの国交も回復し、更には中国の習近平に対する牽制にもなるので、それが起きることがアメリカにとっては望ましいシナリオなのです。

 

今回の紛争にはグローバル化、情報化の進んだ今世紀に、強大な軍事力を背景に覇権を握ろうとする前世紀型の紛争がどうなるのかという姿が見えます。世界からボランティアでウクライ軍に志願する人が数万人もいると言われます。ウクライナ側でロシアの軍人がどうなったのかという情報共有をネットでしたり、SNSなどで難民の支援や、民間のウクライナ支援の様々な動きがあります。更には、グローバル経済の中で、大規模な経済制裁、そしてロシアを孤立させることに何らかの抑止力があるのか、経済の影響はどの程度なのかを測ることもできます。この紛争は今後の時代を変える大きな要素があります。その一方、追い詰められたプーチンは引っ込みがつかない状況なので、世界最大規模の軍事力を更に投入し、紛争を拡大させ、より残酷な方向に向かっていくと考えられています。西側諸国が望まなくても、第三次世界大戦に発展するリスクは消えないのです。核兵器のような恐ろしい手段もちらつかせている上に、原子力発電所を攻撃するという手段を択ばない攻撃をしています。今後エスカレートし、無防備のウクライナの人々が殺される姿を見ることには耐え難いものがあり、早くこの紛争で終わり、更にはウクライナが自国を独自の力で守り、ウクライナ人が願う結果になることを切望してやみません。