アメリカで働く魅力

労働者が給与が安い国から高い国に出稼ぎに行くということは昔からあることです。私が住むハワイに日系人が多いのも、戦前の出稼ぎの結果としてたくさんの移民が来たからです。「成金になって帰るぞ!」それが合言葉でした。考えてみれば、私もいつの間にか「移民」になってしまいましたが、MBA取得後数年働いたら日本に帰ろうと思っていました。それが30年もたってしまったということです。私の場合はMBA取得後の最初の給与は日本に帰国し外資金融機関などで働くという私が別にもらったオファーに比べるとかなり低いものでした。ただ、アメリカの良さは実績に応じて給与が上がり、その上がり幅というのが想定外に大きいものになるのです。それは近年の大谷翔平がMLBの記録となる年収をオファーされたことからもわかる通りです。更に何よりその競争の過程で自己育成ができ、仮にうまくいかなかったとしても、日本に帰ればそこで鍛えた実績を生かすことができるという、ダウンサイドの少ない投資だったのです。そして周りには世界中からそのような移民が集まってきており、移民の国アメリカは自然と外国人を受け入れる風土や制度があり、すっかり馴染んで今に至っています。

 

海外に働きに出る若者の増加

外務省の統計によると海外に長期滞在している日本人は130万人いて増加傾向にあります。法人統計調査によると企業による海外駐在員総数は2005年以降は増えてはいません。私はアメリカでコンサルタントをしていて、主に日系企業を担当してましたが、2000年以降は大企業は現地化が進み駐在員の数が減っていることは目に見るようにわかりました。その証拠にLAでは、あさひ学園という日本人向けの土曜日学校の規模が大きく縮小し、駐在員をターゲットにしていた日本食レストランの多くも店を閉じるようになってきました。つまり、長期滞在者は全体的に縮小してはいませんが、日本企業の駐在者としては大きく先進国から発展途上国にシフトしていったということが言えます。ところが外務省の統計によると在米の長期滞在邦人の数は増えてきています。それを考えると私のようにアメリカで働く人や国際結婚が増えたのかとも思えます。

それを裏付けるのが賃金格差です。戦前のように、日本の経済衰退により若者にとっては海外で働く方がメリットが多いという現実があります。ここハワイの最低賃金は14ドル、カリフォルニアでは16ドルです。現在の為替では(1ドル=148円)どんな仕事でも日本円で時給2000円以上は稼げます。実際、私は最低賃金で働いている人を知りません。殆どの人はそれより多いのが現実です。そしてそれでも人が見つからないのです。私は奉仕の気持ちで教会で働いていて、年収は以前の3分の1程度ですが、それでも日本の平均年収の倍以上になります。そこまで格差が広がってしまった、そこまで日本経済が落ちぶれてしまったという現実があるということを認識する必要があります。実際私が日本を去った1993年の頃と比べても給与はたいして上がってないし、物価もそれほど変わっていません。なので日本に帰国する度に浦島太郎のような気持になります。トップランナーであった日本の経済は足踏みをしていて、他の国々に次々と抜かれていったというのが過去30年になります。

 

増加する日本人出稼ぎの問題点

日本の足踏みが止まり、またレースに参加できる日が来るのでしょうか?ただ、まだその時は来ていないと思います。そして日本人の出稼ぎ増加が、日本経済にとってさらに悪い状況を生みます。確かに昔も出稼ぎ移民はいました。ただ、戦前の出稼ぎ増加と比べ、今回の状況は日本の経済を加速的に悪化させるリスクがあります。その理由は以下の通りです。

1)Brain Drain(脳の流出):ここハワイでは優秀な人材がメインランドに行ってしまい、人材が流れ出てしまう(DRAIN)という問題があります。それをBrain Drainと呼びますが、日本はこの現象が加速して実害をもたらすと思います。戦前の移民を調査すると、地方出身者で、更には次男、三男といった農家の後継ぎとならない人が多く移民したようです。つまり日本の経済を支えるだけの人的資源は日本に残されていたので、その後の発展がありました。現状の日本は少子化で、若者は貴重です。但し、従来の年功序列で役に立たない年寄りに多くの給与がいき、将来がある若者に給与が少ないという現実があります。その結果として若者が海外に労働力として出てしまいます。優秀な人材が日本に残らなくなると、将来の日本の発展ということはなくなります。

2)戻るIncentiveの欠如:海外でお金を稼いだ人の多くは、そのままその地に残ることを選ぶ傾向にあります。というのは生活がそれに依存するので、出来上がったキャッシュフローを変更するメリットがないからです。更にオーストラリアやアメリカなどは移民を受け入れる風土と制度があるので、そのまま同化し、私のように知らず知らずのうちに移民になってしまうということが想定できます。中国企業などは以前中国人の海外留学生などをトップクラスの給与で呼び戻すことをしたので、国際的水準で競争できる企業が次々とでき、経済が活性化しました。日本も人材を海外から呼び戻す何らかのモチベーションを出さないと、一時的が、永遠になってしまいます。

3)資金の流出と滞る流入:フィリピンなどは経済的に海外での出稼ぎ労働者が国に持ち帰る資金にかなり依存しています。ところが日本の場合は逆に富裕者がより税金が安い国、投資益が多い国に資産を移転していると言われています。自由経済の場合はこれを規制するのは困難になります。経済活動を活性化させるのに資金は不可欠です。資金の流出が加速すると円はますますその価値を失い、最悪貧困者しか残らない国になってしまいます。更に若者の多くはフィリピンのように自分の家族、自分の親の世話をしなければならないという考えがありません。というのも日本人の多くは国の社会保障に甘えているからです。フィリピンと違い、日本人の海外労働者が日本の家族の為に送金をするというモデルは想定できません。

 

これらは日本の経済状況を悪化させます。なので、今後これらを防ぐために新卒や若者の給与を上げ、生産性の低い年寄りを早期退職させる流れが加速すると想定されます。その結果として現在日本に残った40代、50代の人達の経済生活は安定しなくなります。退職金や年金もあてにならない恐ろしい日々がくるかもしれません。ある意味その世代には災難ではありますが、そのような時代が来ることを私は以前から言っていたし、CVSという学生の活動もそれを意図してやっていました。初期の学生はもう40代になりますが、海外で活躍している人が多くやっていて良かったと思っています。

 

海外就職の手順

海外の方が稼げるからといって安易に海外に行き、ウェイターや農業などの仕事をする意味はないでしょう。職業とは手に職をつけることであり、それが長期的に、将来的に役に立つかどうかと考えてみる必要があります。ただ、お金のために働くというのは、若い女性が稼ぐために売春をするようなものです。若いときにはスキルを培い、将来的に世の中で役にたつ熟練を必要とする仕事をするべきです。人生は長いので、長期的なプランに基づき、短期的なアクションを考える必要があります。アメリカ出稼ぎに関しては以下の戦略的なプロセスを取ることを勧めます。

 

ステップ1「留学」:私がデロイトで採用をしていた際にも日本から直接採用することはしませんでした。アメリカの大学を出ていること、そしてアメリカ人とやっていけるレベルの実力があるということが重要でした。アメリカに残り働きたいのであれば、まずは学生になり、大学で学位を得ることが重要です。特に大学院留学は期間も1~2年と短い上、奨学金やTAの仕事もあり、専攻によっては就職につながりやすいのでお勧めです。物価が高い国に来て最下層の仕事をすることに将来はありません。そしてしっかりとした雇用者に雇用してもらい、VISAやGreen Cardのサポートをしてもらう必要があります。その為にもせめてアメリカのトップクラスの大学や大学院に入る実力がまずはあることが重要になります。学力が不足している人は、アメリカで人材が不足している以下専門職のスキルを身に着ける為の留学をするのもありかもしれません。

 

ステップ2「資格」か「投資」:技術がないとやっていけないのがアメリカです。更に私がGreen Cardを取得した際にも特定の職業のプロセスが早くなるということで半年ほどでGreen Cardを出してもらうことができました。私はMBAをもっていましたが、米国公認会計士CPAの資格も取りました。医師、弁護士、公認会計士、牧師、保育士など資格を必要とする職業につくことが永住権を取得するのには重要だし、長期的にキャリアを築くうえで必要になります。看護師はかなり不足しているらしいので特にお勧めです。同様に料理人、美容師、植木屋、Artistなどの職人も良いエントリーであると思います。「投資」もいけますが、現地で雇用したり、実際の売り上げがなければならないので、まとまった資金がないとできないので、日本に親会社があるか、莫大の資産とアメリカでのビジネスプランがしっかりとあることが原則になります。ドル高が続くので、アメリカで事業をすること自体はチャンスがあると思うので悪くないと思います。興味がある人は私は以前エントリー戦略のコンサルもやっていたので無償でアドバイスしますよ。

 

ステップ3コネクション:就職をするにしても、グリーンカードを取るにしても、事業をするにしてもコネクションは重要です。その為には、ターゲットする地域の何らかの団体に属したり、ネットワーキングをする努力が必要になります。日本でもそうですが、特に起業をする際には信頼できるネットワークがないと成功させるのは困難です。VISAや永住権はスポンサーなしに得ることはできません。信頼できる弁護士、会計士、ビジネスパートナーがいれば、起業をしてVISAや永住権を取ることも可能になります。特に起業や投資家の場合は、ある程度の売り上げ、従業員の雇用といったものが要求されるので、その基盤をつくるのにコネクションは重要になります。私は今、教会で働いていますが、教会は信頼できる人に出会う場としては最適です。人間関係を構築できれば、弁護士、会計士、事業主などから個人的な友人ベースでのサポートを受けることも可能です。更に教会では外国人を含む貧困者をサポートしたり、授業料を払ってあげたりといった支援もしています。以前行っていたハリウッドの教会では日本人のホームレスの女性の支援をしていたし、私のいた教会でもベリーズから来た違法移民が合法的に永住権を取れる支援をしていました。

 

私は過去、日系企業のアメリカ進出の支援をしたり、学生の海外就職や留学のサポートもしてきました。今はリタイヤして教会で働いていますが、暇なので、アドバイスしてほしい人がいれば気楽に相談に来てください。ホノルルのOlivet Baptist Churchの事務所にいます。御用の方は気軽に来てください。