最近の円安の議論の中で実質経済の話がよくでてきます。日銀の為替介入があろうが、アベノミクスのような政府の経済政策があろうが、日本経済が実態として競争力がない限り国は貧困化していきます。日銀がやっている莫大な市場介入や、日本政府がやっている莫大な財政赤字は日本国民の「真面目さ」に支えられているということを忘れてはなりません。具体的には日本人は「働くことに社会的責任を感じていること(お金のため以上の意義を感じていること)」、「借金より貯金をする傾向があること」、「税金をしっかりと払い海外に逃げない事」、「金利が低くても日本円を信頼して日本円で普通預金に入れていること」、「安い給料でも真面目に働く人がいること」、「技術が高い職人が多額の報酬を求めないこと」こういった国民特性のことです。さらに日本は民主主義と言っても、国民は政府に対して忠実であり、社会を乱す非生産的なこと(激しいデモ)などはありません。こう言った国民特性のある国をGovernするのは簡単ではありますが、大きな責任があるということを忘れてはなりません。80年代に安倍晋太郎氏(安倍晋三元首相のお父様)の団体で働いた際に、アメリカの政府の高官と自民党の代議士や秘書達の雑談などを身近で見て、漠然と感動しました。但し、後にジョージタウン大学に留学し、NHKワシントン支局でのインターンなどを通じてアメリカの政治家のことをよりよく知るようになると、アメリカ政府と自民党の関係はヤクザの親分とチンピラのような関係に見えてきました。アメリカのような大国は日本をかつて戦争で破った同盟国の一国としてしか見ていないのに対して、日本はアメリカを親分として忠実にサポートしているということです。ただ、実際にアメリカがそこまで日本に対する思い込みはありません。それが80年代当時に貿易摩擦で揉めていた日米関係における私の大枠での結論でした。さらにはアメリカという国も内部分裂や統一性の低い脆弱的な部分があることも忘れてはなりません。だから日本は台湾有事の際などに戦争に巻き込まれる可能性はありますが、アメリカ国民が命をかけて日本と助けるというような関係にはならないと思います。日米関係は不沈空母ではなく、それを言った日本(中曽根首相)が一方的に思っている片思いに過ぎないのです。

 

そのような政治体制の中では色々な点でミスマッチがあります。というのもバブル崩壊で経済が苦しんでいる間にアメリカはテクノロジーの分野で大きく成長し、新たな経済の活路を見出しました。逆に日本はアメリカの批判を真面目にうけ、テクノロジー分野などでは不利な貿易状態に陥り、過去世界でリートしていたメモリーや半導体の分野では大きく市場を失うバカな結果を生みました。その間、内需拡大をしろ的な批判を受け、日本政府はそれに焦点を当てていました。ただ、中国とのビジネスを拡大させ世界に格安の商品が溢れる中、バブルで懲りた日本人はそこまで需要を上げることはなく、過去30年国民生活は徐々に貧困化していきました。私は過去30年アメリカで生活しているので、日本を断片的にしか見ていませんが、この30年で、日本の道路は高級車から軽自動車、高級な百貨店から安売り100円ショップと街中の様子は大きく変わっていきます。デフレと同時に貧困化が進んでいたのです。

 

こう言ったビジョンのない国は今後とも衰退していくでしょう。そして目の前で見えている以下の兆候が前述した日本国民特性をも崩壊させる大きな問題を生むということを理解しなければなりません。

 

1)人口減少と、中小企業の労働者不足:岸田政権では意味もなく国民の給与を上げようとしています。つまり、円の価値低下と世界規模のインフレの中、給与を上げることで、国民負担を削減しようというものです。(更に年金を相対的にあげないので、高所得者に流動性の低い貯金を使わせようということもできます)。ただし、現時点で実質賃金は上がっていないので、世の中をより大企業の勝ち組(円安でも海外で儲けれる)と負け組(日本の中小企業は給与を上げれていない)に分かれていきます。私は長年日本の自動車産業のコンサルタントをしてきましたが、その強さの根底にあるのが親分である自動車メーカーと子分であるサプライヤーの関係です。多数の日本の中小企業が大企業をサポートしていますが、親分からのコスト削減に対するプレッシャーは、サプライヤーに一方的に出され、その結果として中小企業が給与を上げることができないという実態があります。中小企業を支えていたのは安い給料でも真面目に働く熟練労働者です。ただし、彼らは高齢化し、その代わりになる若者や移民は同様の苦痛を受け続けることはできないでしょう。最終的に下(中小企業)から崩壊が始まり、日本企業は競争力を失っていきます。

 

2)増税と高齢化による民間経済への海外への流出:日本政府の財政赤字は税金でどこかで賄われなければなりません。更に高齢化が進むと、社会保険料が増大しより財政赤字は増えていきます。世界的なリベラル経済の中、世の中は勝ち組と負け組に分かれますが、勝ち組である高所得者は増税を逃れるために海外に逃げることが想定されます。というのもアメリカを含め、金持ちはどこの国でも歓迎されます。少子高齢化で全需要が減っていく国にいるより、よりチャンスがある海外の方が資産価値を下げない上で魅力があります。教養の高い人や高所得者が日本を出てしまうと日本は経済を動かすエネルギー時代を失うことになります。日本はむしろ小さい政府にして、現段階の歳入で政府が回るような体制にし、将来的に税金が低い国にしないと、将来的に空洞化が進みます。

 

3)日本人の倫理崩壊:日本人は自然災害があっても、戦争で何の保証もない中、多くの人が死んでいっても文句も言わず耐える国民性があります。円安で国民として貧困化していても愚痴は言いますが、デモはしません。ただ、鬱病のように、表に出なくても中から崩壊することがあります。それは相対的に国民全体としての教養レベルの低下や将来のことを考えず、目の前の楽しみのみを追いかけるといった基礎倫理の変化になります。「真面目に働く」「給与が安くデモ文句を言わない」こう言った日本経済を支える基礎的な国民倫理が崩壊すれば、日本としての製造業の競争力もなくなり、必然的に経済は崩壊していきます。そして忘れてはならないのが、モラルの崩壊の責任はリーダーである政府にあります。企業のコンサルをしてきた経験からいうと、モラル崩壊が再建イニシアチブを取る際に最も困難な問題になります。人間が「気持ち」から死んでいくように、「モラル」が国崩壊に結び付きます。

 

私は昔から極端に悲観的な日本の将来を語ってきましたが、実際そのように時代が動いているので非常に悲しくなります。但し、全く違う形で日本が素晴らしい国になっている可能性もあります。例えば、日本人の20〜30%が外国人になり、特に中国からの移民などが増え、韓国や台湾と一緒に民主化キャピタリズムの経済圏として成長するというものです。特に優秀な若者を日本に集めることができ、テクノロジーや製造の分野で競争力の維持ができれば日本の将来も明るくなります。ただしそれらは現状維持では無理なので、新たな若いリーダーが出て新しい日本のVISIONを語ってもらいたいと思います。